世界的なパンデミックを皮切りに、近年 動画配信の需要の高まりと共に、コンテンツの保護手段としてDRMの認知度も広がってきています。しかしながら、認知されてきたとはいえ、DRMについては、まだハードルが高いと感じられていたり、誤解をされている方が多くいらっしゃいます。そのため、本記事ではDRMを始められたい方向けに、DRMのよくある誤解について解いていき、その後、DRMの全体像や始め方について解説していきます。

DRMによくある誤解

まず始めに、DRMと聞いたときに よくある誤解について見ていきましょう。

誤解①:HLS暗号化配信=DRM

こちらは一番多い誤解のひとつとなります。コンテンツを保護したいとなった場合、簡易的な方法として よく見られるHLS暗号化配信(または、HLS+AES128)ですが、こちらは あくまでも「暗号化配信」となり、「DRM(Digital Rights Management:デジタル著作権管理)」とは根本的に異なるものとなります(DRMについては後述)。

HLS暗号化配信は、コンテンツ保護という面では、DRMに比べると格段に弱く、映画やドラマなどの権利を持っているコンテンツプロバイダーは認めていないことが多いです。HLS暗号化配信とDRMの比較については、こちらの記事で詳しく説明していますので、併せて ご参照ください。

誤解②:ストリーミング配信・ライブ配信ならば不正コピーの心配はない

こちらも よくある誤解のひとつとなります。ストリーミング配信であっても、ライブ配信であっても、ネットワークキャプチャなどでコンテンツを保存してしまえるため、やはりコンテンツを保護したい場合はDRMを使用することを検討される方がよいです。

また、コンテンツはユーザ認証やIPアドレスで制限しているから大丈夫だ、と考えられていらっしゃる方もいるかとは思いますが、認証済みユーザが悪意を持っていないとは限らないため、このような場合にもDRMで保護は可能となります。

誤解③:DRMの導入は難しい

DRMが初めての方は、導入へのハードルが高く感じられており、時間もかかると感じられている方が多いです。確かにDRMを使用して複雑なことをしようとする場合は、DRMだけではなく、動画配信の知識も いろいろと必要となってきますが、シンプルに、動画を配信しDRMで保護したいという場合は実装は簡単に済みます。

実際、弊社『Multi DRM Kit 』のお客様でも、単純なDRMを使用した再生確認程度であれば、2〜3日で完了された方もいらっしゃり、他にも1ヶ月で本番リリースまで漕ぎつけられたお客様 もいらっしゃいます。弊社サービスについて、より詳しく説明を聞かれたい場合は お気軽にお問合わせください。

DRMとは

改めてDRMについてみていきましょう。DRMとは、先にも出てきましたように「Digital Rights Management」の略称で、デジタルコンテンツの著作権管理技術の総称です。「DRM=コンテンツの暗号化規格」と こちらも誤解されることが多いですが、”管理”という名の通り、ユーザがコンテンツをどのように利用するかの制御を可能とするもので、動画配信分野で言いますと、ユーザの視聴可能な時間に制限を設けたり、別デバイスへのコピーを防止するなどの機能も持ち合わせています。HLS暗号化配信とDRMの違いについて解説した記事にもございますが、動画配信分野におけるDRMと呼ばれるものは暗号鍵の保護が強力で例えネットワークをキャプチャしたとしても簡単には抜けないものとなっております。

DRMの種類

PCブラウザやスマホなど世の中一般に出回っているデバイスに配信する場合、関係してくるDRMは『Microsoft PlayReady』、『Google Widevine』、『Apple FairPlay Streaming』の3つとなります。各社がそれぞれ提供しているプラットフォームごとにDRMが存在すると考えていただければ大丈夫です。DRMと対応するデバイスについては、こちらの記事で表にまとめてありますので、併せて ご参照ください。

DRMは自前で用意することが可能なのか?

結論から言いますと可能ではありますが、その道のりは長いです。DRMの知識はもちろんのこと、資格取得のための研修英語のドキュメントを読み込み実装、などの準備だけではなく、その後のシステムの運用やアップデートへの対応、ライセンス費用など高いコストがかかります。そのため、よほどの理由がない限りはDRMプロバイダーが提供するサービスを利用するのが良いです。

DRM配信の始め方

ではDRM配信の始め方について解説していきます。下図は一般的なDRM動画配信システムの概略図となります。

システム全体についての解説は こちらの記事を参照いただければと思いますが、ここで特に注目したいのは上図における『③パッケージングシステム』と『⑦ライセンスサーバー』となります。

パッケージングシステム

パッケージングシステムは、コンテンツをDRM暗号化するために必要なシステムです。こちらも自前で構築することは可能ですが、ツールの選定や運用を考えますと労力がかかりますので、弊社『Multi DRM Kit 』で提供しているパッケージングサービスか、AWSが提供しているAWS Elemental MediaServicesやGoogle Cloudが提供しているTranscoder APIやLive Stream APIを利用するのが良いかと思います。

ライセンスサーバー

DRMコンテンツを視聴者が再生する際に、復号のための「ライセンス」を取得が必要となります。そのライセンスを発行するためのものがライセンスサーバーとなります。ライセンスには、保護された暗号鍵だけではなく、再生可能時間などの細かい制御のための情報が含まれており、PlayReadyやWidevineなどDRMごとにサーバーが必要となってきます。

以上がDRM配信に必要な主なものとなります。他にも、プレイヤーなど必要なものはございますが、例えばWebブラウザの場合は、こちらのTHEOplayerでのDRM配信についての記事が参考になるかと思います。

また、DRMを始められるにあたっては、DRMプロバイダーが提供するサービスを利用されればDRM配信に必要なものは基本的には揃っていますが、AppleのFairPlay Streamingの場合は、お客様ご自身で『FairPlay Streaming証明書』を取得する必要がございますので、ご注意ください。弊社では、FairPlay Streaming証明書の取得もサポートしていますので、お気軽にお問い合わせください。

さいごに

簡単にDRMの全体像と始め方について解説していきましたが、いかがでしたでしょうか。DRMは一見複雑で難しいように思えますが、DRMプロバイダーが提供するサービスを利用すれば、案外DRM配信の実現は簡単です。この記事で解説してきたこと以外でも、いろいろと気になる点などがありましたら、お気軽にお問い合わせください。